仕事を辞めたときの話
ある年の秋に差しかかる頃、私は大好きで仕方なかった仕事を辞めた。
その仕事関連でやっていきたいと決心したので受験をして入った私大を中退し、専門学校に入学しながらやっていた仕事だった。
我ながら天職なんじゃないか、と思っていた。
好きこそものの上手なれ、とはいうけれど
そこで覚えることは何か頭の中に録画機能があるかのように流れで覚えることができた。
体が覚えたことの通りに動いてくれるような感じがした。
不測の事態に陥っても「これだ!」と思える手段を思いつくことができて即時に行動した。
もちろんいつも改善点ばかり感じた。でも自分の動きを先輩や上司に褒められて「もっとうまくなりたい」と毎度前向きに思っていた。
あまり主張が強めなタイプではなかったかもしれない。
だからなのか勤務に入ると「よかった!今日は優秀ちゃんがいるわ」と先輩方に言ってもらえていた。
それが先輩方の本心なのかどうかはわからない。
でも、笑ってそう言ってもらえるといつもより得々として断然体がよく動くような気がした。
そして、仕事そのものよりも周りのみんなとサポートし合いながら作り上げるひとつの場に満足感を覚えていた。
だから、ここが天職なんじゃないかと思っていた。
その職場を辞めざるを得ない事情が自分に降りかかったとき、休職期間中に何度も泣いた。
何度も「ここじゃなくなったら私はもう終わりかもしれない」と思った。
実際、辞めてからも何年もそんな気持ちで過ごした。
もう私は栄光期を終えたからあとは衰退しかない。人生に楽しいことなんかない。
そう思っていた。
でも実際にはそんなことはなかった。
退職の挨拶の日。
頭を下げて皆さんと少し顔を合わせ、泣きながら帰りの電車でぼんやり見上げた空が今までの人生で一番青かった気がした。
今日の空を見ると、相変わらず空は青くて美しい。
あの日も今日も、きっと同じだけ美しい。
私のがんばりも、美しいものだった。
そう思える今の私の気持ちもきっと、最高に美しいと思ってあげよう。
あんなに一生懸命に働けたこと、そんな経験を持ててよかった。
自分が誇らしい。
あのときからずっと、がんばってくれてありがとうね、私。
ちゃんと今につながっているよ。
だから安心してね。
ありがとう。