FTM元パートナーとしての、いち体験談。
今回、パンセクシャルである私が、FTM(女性としての体を持って生まれ、男性として生きていく人)の方と交際した経験のある元パートナーとしての体験談を書こうと思います。しかし思った以上に書き出しに苦労したのでお手紙形式にしてみました。拙い文章ですが、この体験談がどなたかの何かにつながったらうれしく思います。
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「FTMであること」という生き方を歩み続けている、私の大切な人へ。
今、どんな風に過ごしていますか。
あなたが大切にしたい何かとあなたの大切な時間を過ごせていますか。
ちゃんと誰かを大切にしていますか。
きっとあなたのことだからそうしていると思います。
FTM当事者として生きるあなたはすごく格好良くて、とても不器用でしたね。
「女の子はこういうの好きでしょ」って私に様々なアプローチをしてくれました。
結構、裏目に出ていたよ。バカだね。
でも、そんなあなたのハチャメチャな願望は私の固定概念をたくさん覆してくれました。
絶え間なく無邪気に向けてくれていたあの欲求と気持ちは本当は考えなしなんかじゃないってこと、最初のデートの日から伝わっていました。
そんな風に多少おバカさんを装ってでもないときっと伝わらないことがありすぎたのでは、と思っています。調べてもどこにも例が載っていないのだから。
だからいつもあなたは私が深刻に捉えすぎないようにと一生懸命笑いながら、どストレートに私に伝えてくれていたのだと思います。
がんばってくれたね。私には、そこがとても魅力的でした。
あなたが欲しいものを生まれながらにして持っているかどうかより、私にとってはその気持ちの部分がいつも輝いて見えていました。
伝えてくれてありがとう。
その真っ直ぐで素直な気持ちに応えたくて、あなたとのセックスはいつも必死でした。そして幸せでした。
二人で色んなことに挑戦しました。
「こんなやり方があった!」って何度も世紀の大発見みたいに教えてくれたことを覚えています。二人にとって最高な時間を作るためにいつもたくさんの情報を調べてくれていたな、と振り返っています。
せっかくグッズを買って試してみても二人で痛い思いをしたこともありました。
グッズを装着するときのあの独特な居心地も、毎回二人で探っていた気がします。
行為中に気持ちいい位置がズレてしまうこと。
キツくないグッズを試すと今度はベルトが緩くて最中にも関わらず何度もベルトを絞め直したりしなくちゃいけないこと。
あなたが「ちょっとごめん」と言いながらしてくれる全てのことが、私にとってはうれしかったです。
自分がイく瞬間がどんな風に私に伝わるかすら、あなたはちゃんとわかりやすいように気配りをしてくれていました。
目に見えてイッたかどうかがわかりづらいから、あなたなりのサインをくれていたのじゃないかなと思えてすごくうれしかったです。
初めて勇気を出して服を脱いでくれた日のこと、体温を直に感じ合えた幸せを今でも覚えています。泣けたよね。二人の涙と体がくっついて、ただただあったかかったね。
スムーズにコトを運べるかなんて何も問題じゃない。そんなこと私にはどうでもいい、と心の底から思えました。
私と一緒に作りたいと思ってくれた時間、そして、そこに熱量を持ってくれることが何よりもうれしかったです。
これを読んで「もしかして俺のことかな」って思っているでしょうか。格好よかったよ。いつもそう言って欲しがってましたね。
あなたの生き方は私にとって、これからもずっと誇りです。敬意を込めて書いています。
今、かつてのあなたと私が欲しかったものを一生懸命に作って世の中に広めようとしている人が大勢います。優しい愛がむき出しになって、色んなことを笑いながらへこたれず前に進もうとするその姿勢がこれからどんどん世界中に広がりそうな気がしています。
あなたがそれを何らかの形で手に取ってくれたなら、これほど幸せに思えることはないかもしれません。もしこのことを知らずに生きていったとしても、他の誰かがきっとどこかで幸せになると思っています。
あなたの生き方が、あなたと私の経験が、誰かの何かにきっとつながっています。
見てろよ。幸せな人がガンガン増えるから。
だから、どうか不器用で情けないままのあなたで居て欲しい。
誰かと試行錯誤する時間を幸せだと言えるあなたのままで居て欲しい。
その試行錯誤の時間は、きっとこれからちょっとずつ楽になります。
少しだけだけど、私はそのお手伝いをします。
だから、幸せになってね。私も幸せになります。
パートナー側として何かを伝えようとすると途端にわかったようなことを言うのはおこがましいと思い、こんな形の文章でのお伝えとなってしまいました。
かつての、いちパートナー側としての想いを少しでも誰かにお伝えできたら。
「こんな風に想っている人間もいるんだな」と一部分でもどなたかに届いたら、こころからうれしいです。
※ 愛と敬意を込めて書いています。どうかそれが伝わりますように。