男は狼だから
よく聞いてきたこのセリフ。
「男は狼だから気をつけて」。
本当にそうだろうか?
男女が二人きりの部屋に入ったらそういうことでしょ。
男は豹変するから。
そういったワードを受け続けると当たり前だけど男性は何かとても怖い一面を持っているのだという意識をもって生活することになる。
私は少なくともそうだった気がする。
そのフレーズはどちらかというと家庭内よりも、友達やバイト先の先輩などから聞く方が多かったような。
そしてかなしいかな、
狼になった男の人をどこかしら喜んで受け入れなくてはいけないのでは?という意識も私の中に確かにあった。
相手がいとも簡単に狼になる…
というか動物本能を剥き出しにするほど、自分に対して興味関心がある状態を喜ばなくてはいけない、というか。自分に性的魅力があることを喜びなよ、と言われている気になって、私はそこがどうにもこうにもとても苦手だった。
だから男性から性的な目を向けられるとスッと冷める自分がいた。むしろ怒ったりしていた。狼に対しては応えたくなかったのだ。
その人にそんなつもりはなかったかもしれないのにとてもかなしいことだ。
あなたがあなたのままで、人として居てほしい。
それが私の本音だった気がする。
それからしばらくして、まだまだ幼さの残る思春期に私は女の子を好きになった。
その時の、恋愛感情以外の感覚は自分にとってすごく強烈であり、衝撃だった。
狼になるかもしれない、と思った。
そんな自分がとても怖かった。
でも今になって思う。
「男はみんな狼だから」
そうだろうか。やっぱり何度も首を傾げる。
私の勝手な憶測に過ぎないけれど、そう言われる男の人達もみな、誰かこころから愛する人と向き合って裸になったとき、その時はきっと狼のようではないのじゃないかしら。
やっぱり、人間なんじゃないか。その人自身なんじゃないだろうか。
情けなくもあり、かなしいほどに独占したくて、切なくなるほど相手を愛しく想い、相手のこれまでに嫉妬して、二人の今後を不安に思って、でも今目の前にいるその人にその全てを明け渡してみたい、
愛してるよ、ただそれだけだよ。と伝えたい、そんな気持ち。
それを受け容れてくれるパートナーのものすごい安堵感。そこが気持ちよくて、もうその人以外は愛せないと思うようなそんな感じ。
男の人も女の人もその他のどんな人も、みんなその人でしかなくて、私が聞き飽きるほど聞いたあのフレーズは自分で自分にかけた呪いの一つだったのかもな、と思う。
そのフレーズにイメージを加速させて必要以上に怖がっていたかもしれない自分を思い出している。
みんなこころに愛を持っていて、それが剥き出しになるその瞬間に一番、その人自身になる。
それは何もセックスの時間だけじゃなくて、いろんなコミュニケーションの場で。
だからきっと、みんな狼でもあり兎みたいでもあり、猫や犬のようにもなるけれど、結局はやっぱりやさしい人間なのだろうと思った。
自分でかけている呪いを、どんどんひとつずつ紐解いていってあげたい。
ここに書いたことは決して正解なんかじゃないと思う。本当なんかわからないもの。
でも私は、そんな風に思っていると少し世界がやさしく見える気がしたから、そう思うことにした。