東京と私が好きだったひと
東京ってせつない。
きっと昔からそうなのだろう。
私が知っている東京は、すごく目まぐるしくたくさんの人が動いていて、色んなものがすぐに壊されていく。
ごちゃごちゃしてて、みんなあまり人のことを見ていない。
だから私も東京へ行ったらよそ見ばかりする。
でも小さい頃からなぜだかどうしようもなく東京が好きだ。
大っ嫌いになったこともあるけれど、完全にきらいになれない。
いつだって届かなくて、すごく速い。
ついていけない。
だからすごくカッコいい。
近くにいたくてなかなか離れられなくて、すごく憧れてる。
でも気持ちが忙しくなるからずっと一緒になんかいたくない。
とってもさみしい顔をして、何にも執着してないように見えて、きょうと明日はまったくちがうひとになっているみたい。
どこをとっても聡明にキマって見えて、いつも颯爽としてる。
そんな表情がときどきちょっと憎ったらしくなって、嫌味のひとつでも言ってしまいたくなる。
私とは、どこをとってもまったくちがう。
だから、そのビルのかげで何を思ってるんだろう?ってとっても気になる。
少しだけそこが垣間見れたとき、私は人の営みがちゃんとあることに安心して、鼻の頭が熱くなって、ぼんやり、うっとりとする。
わからないことがいっぱいある。
人の数だけ、ある。
景色がどんどん変わるから、何がわからないかさえも消去されていく街。
私は東京に行くと、すぐに道に迷ってしまう。
迷ったら、ちゃんとまたうちに帰ろうと思う。
ちくっとした痛みがある街。
私の挫折の色が残る街。
でもその分きっと、人情もいっぱいある街。
東京と私が好きになったことがあるひとは、やっぱりすごくよく似てる。